メンバーがそれぞれの可能性を発揮できる組織文化の重要性は、普遍的なものです。最近の研究では、他者とのやり取りを通じて正確な自己理解を求め続ける1) 謙虚なリーダーシップ(humble leadership)がメンバーの創造性(creativity)を促進すること、そして、2) その促進効果は職場の心理的安全性(psychological safety)によって媒介されること、さらに、3) その媒介効果は知識共有(knowledge sharing)によって修飾されることが報告されています。
他方、正確な自己理解をテーマとする当事者研究では「経験は宝」というスローガンのもと、積極的に症状や苦労、失敗談といった「弱さ」を情報公開し、苦労のメカニズムや対処法をグループ全体で研究します。弱さや失敗は責められるべきものではなく、グループ全体に新しい知識をもたらす貴重な研究資源と位置付けられ、心理的安全性の向上につながります。また、研究を通じて新たに得られた知識がグループの中に蓄積されていくことで、知識の共有が可能になります。
このようにしてみると、当事者研究を導入することで、リーダーの謙虚さや、心理的安全性、知識の共有が促進され、人々の創造性や組織の力を高める可能性があると考えられます。これは、企業が取り組んできた多様性のマネジメントの取り組みとも、共通する部分が多々あるはずです。私たちは、組織に当事者研究を取り入れることで、こうした組織文化が実現するという仮説のもと、情報交換と仮説検証を行っています。また、東京大学エクステンションに新設されたインクルーシブ・デザイン・スクールにおいて企業向け「当事者研究導入講座」を開講しています。